食のコラム
フォーデイズ会報誌のコラムより
丹羽 真清(にわ ますみ)
椙山女学園大学家政学部卒業後、食品会社に入社し、1986年に独立。食品業界で商品開発などに携わったのちデザイナーフーズ(株)を創業。
食べ方をデザインし、外食産業が「食の病院」食品メーカーが「食の薬局」になるための情報提供、商品開発、企画提案を行う。
食の大切さ
私たちは毎日2㎏近い食べ物を食べ、2ℓくらいの水分を摂り、平均寿命の84歳までには60t(トン)ほどの食べ物を食べていることになります。生活環境の中で毎日3度の食事は健康に直結していると言っても過言ではありません。
口から入った食べ物が我々の細胞になり命につながっていきます。日々それを考えながら食べ物を食べていらっしゃいますでしょうか?
簡単・便利な食が幅広く提供されています。忙しく働く私たちにとってなくてはならない社会インフラになってきました。しかし将来寝込まないでピンピンコロリと逝けることを望むならば、今一度「便利な食品と引換に健康を害していないか」を見直してみましょう。
そして、 ”バランス良く食べる“と簡単に言われますが、何をどのくらい食べたら良いかはなかなか分かりにくいものです。
「ま・ご・た・ち・わ・や・さ・し・い」を毎日思い出しながら、
ま:豆類
ご:ゴマ・ナッツ類
た:卵(魚の卵も含む)
ち:牛乳などの乳製品
わ:ワカメなどの海藻類
や:野菜類
さ:魚介類
し:シイタケなどの菌茸類
い:芋類
を1日の中に1回以上取り入れたか? をチェックしてみてください。幅広い食品を取り入れることが、偏りなく栄養素を取り入れることにもつながります。
残暑も体調をくずすことなく乗り切っていただけますこと、お祈りいたしております。
「食でセルフメディケーション」
平成27年度の日本の医療費は41兆5千億円と報告されています。
自分で自分の健康管理をしなければならない時代になり、平均寿命より「健康寿命」を延ばすことが重要といわれるようになりました。
長生きをするならば健康でいたいと誰しも望んでいると思いますが、男性で9.6年間、女性で12.8年間平均で、寝込んでいます。そしてますます超高齢化社会になり寝込む人が多くなると医療費増大につながると予測されています。
これから私たちはなるべく病気を発症しないよう、日々の生活に気を配っていかなければならないでしょう。このような時代背景の中で軽度な不調、病気は自分で投薬(メディケーション)をして手当てをすることが、セルフメディケーションといわれるようになりました。できれば病気にならないようにすることが望ましいことは言うまでもありません。
日々の食事は生活習慣の中で大きく健康に影響を与えるところです。食の知識を得ることで食生活改善ができることが望ましいと考えます。できれば一汁三菜を心がけ一回の食事で多くの食材を少しずつ取り入れていくことをおすすめします。
食を知って「選食力」をつける
食材を選ぶチカラを「選食力」といいます。
私たちは毎日食べているもののほとんどすべてを自分で生産、収穫、捕獲することがなくなり、スーパーなどの食品売り場が海や畑の役割をしています。生活の中で食べものを選ぶには、どのように栽培、生産、収穫、運搬、調理、加工、販売されているかを知ることが必要ですが、なかなか困難です。
食品を買うとき、どのような工程を経て目の前に陳列されているかを考えながら、選んでいるでしょうか? また日本には四季があり、本来その季節にしか食べられないもの、一番多く出回り美味しくチカラがある時期が旬です。しかしリンゴなども一年中スーパーに並んでいます。いつでも手に入る便利さを享受できる時代ですが、その裏にあるアレルギーとの関係を見逃しているのではないかと思います。
食物の安全性はもとより、食材・栄養知識、健康に食べものがどのように関係するかという基礎知識を少しでも知って購入できることは、自分をはじめ家族の健康につながるでしょう。加工食品は特に消費・賞味期限をチェックするだけでなく、原材料は何か、他に含まれているものは何のために入っているのか、体に入れて良いか、を判断して購入できると良いですね。
食は人を良くする
食という字は「人」の下に「良」と書いて、「食」。
日々当たり前に「食」という言葉を使っていますが、言葉の成り立ちを考えると大変深いものがあります。本来、人の体をつくっていく食物は良いものであるはずです。糖質・脂質・たんぱく質は三大栄養素といわれ、エネルギーになり我々が生きていくときに必須な栄養ですから美味しく感じます。
美味しいものは体に良いはずですが、食べ過ぎることが問題です。
昔から「過ぎたるは猶及ばざるが如し」(物事の程度を超えたゆき過ぎは不足しているのと同じように良くないことである)といいますが、食べものも同じです。
人類史上満ち足りた食を経験することが少なかったため、私たちの先祖は飢餓に耐えることができた人のみ生き残ってきました。そのため食べ過ぎが長く続くことへの体の対応ができていないと考えられます。
お金を出せばなんでも美味しいものが手に入る時代です。美味しいものを食べることは人を精神的に豊かにし、幸せを感じることができ、争いも少なくなります。
食べ過ぎ、食の偏りが病気につながるとしたら大変残念なことです。食の知識が少しでもあれば、食材の選択・組み合わせ方・調理方法・季節による楽しみ方・加工食品の選び方を含めおのずと、より人を良くすることにつながっていくことでしょう。
食は命の源
私たちは毎日おなかがすくから食事をするのですが、なぜ平均的に3回食事をする必要があるのでしょう。
体は毎日新陳代謝を繰り返しています。新陳代謝を用語辞典で引くと「エネルギー源と栄養素が反応し古くなった細胞から新しい細胞へつくり替えられること」と、説明されています。皮膚の新陳代謝は特にターンオーバーといって20歳くらいのときは28日周期で入れ替わり、60歳を過ぎてくると100日くらいになるといわれています。また諸説あるようですが、胃は5日、心臓は22日、肝臓は60日程度といわれています。年齢、生活習慣、食べものによって変わってくると考えられますが、おおよそ3〜4ヵ月で体全体が代謝していることになります。食べものが体の細胞に替わっていくことを考えながら毎日の食事をしているわけではないと思いますが、口に入れる前に、この食べものは体の一部になるのに良いものか?と考えてみることも大事です。
朝食を抜く「欠食」が20代30代の男女に増えています。朝食を食べる習慣の子どもと食べていない子どもの進学・就職状況のデータを調べたことがあります。食べている子は進学・就職ともに第一志望に合格している率が高いと出ていました。まずは欠食しないこと、そして食材数を多く取れるメニューにすること、また食品を選ぶ力をつけることが大事だと考えます。
今一度食べものの中身の重要性を考えてみてください。
楽しい食が健康をつくる
美味しいものを食べると私たちは幸せを感じ、これを家族に食べさせたいと思ったり、一緒に食べたいと思う人の顔を思い浮かべます。
食べることは生きること。美味しいと感じるものは私たちに命の継続と精神的豊かさも与えてくれます。
しかし、日ごろは時間に追われ食事を簡単にすませたり、一人で食事することが多かったり、一緒にいる家族とも食事の時間が異なったり、同じ食卓を囲んでもそれぞれ違うものを食べたり、食に関心があってもついつい生活に流されがちなことがあります。
私たちの体は食べものからできています。楽しいと感じながら食事ができることは、リラックスした気分で食も進みます。そして副交感神経が優位になり胃腸が活発に働き、消化吸収も良くなり体の回復につながります。音楽を聴きながら、雰囲気の良い場所で季節の美味しいものを、いい香りを満喫しながら一緒にいて楽しい人と歓談しながらいただく食事はお腹も心も満足、そして幸せを感じます。楽しく食べられることは健康への第一歩です。